ひとしねま

2024.2.02

チャートの裏側:「R18+」の上映事情

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

いわゆる成人映画以外の邦画は、なぜ性描写を取り入れた作品が減っているのか。監督はじめ製作側の創作上の事情だと思っていたのだが、ある独立系のプロデューサーが、こう言った。「映画館側が嫌がるんですよ」。あ、そういうこともあるのか。複雑な心境になった。

初登場の「哀れなるものたち」を見て、改めてその言葉を思った。本作は「R18+」指定で、18歳未満の人は見られない。主人公の女性を中心とした赤裸々な性描写が大きな理由だ。狂気的な天才外科医によって子どもの脳を移植され、再生した女性の冒険譚(たん)のような物語である。

その行き先に、性衝動との苛烈な出合いがある。脳は子ども、体は大人なので社会的な規範も弱く、思うがままに行動する。本作の性描写とは、彼女のさまざまに解き放たれた欲望開花の象徴でもあろう。何事にも束縛されない自発的な性衝動は、彼女が生きる根幹の一つをなす。

「R18+」作品を「映画館が嫌がる」というのは、予告編をかけるときの上映作品に限定性があること。ロビーの宣材掲出などでも気を使うからと聞いた。宣伝面のデメリットだ。とはいえ、「哀れなるものたち」が全国355館で拡大公開されている事実は重要だと思う。アカデミー賞11部門ノミネートも大きいが、「R18+」作品の復活が少し垣間見えたのではないか。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)