ひとしねま

2023.3.10

チャートの裏側:あえて求める響く邦題

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

公開前に「フェイブルマンズ」というタイトルを見たとき、随分言いづらいし、覚えにくいと思った。日本向きの邦題が必要ではないか。興行を少しでも有利にもっていくためだ。洋画は以前から、原題をカタカナ文字にするタイトルが増えている。これに疑問をもってきた。

ところが、「フェイブルマンズ」という邦題は、これでなければならない理由があった。とくに、原題はそうである。これは主人公の名前で、彼がこの名前を言うシーンが、作品の重要なテーマの一つになっている。監督はスティーブン・スピルバーグ。彼の自伝的な作品だ。

洋画は難しいと、つくづく感じた。本来なら、日本向きの邦題にすべきだろうが、作品を見た以上、そのような正論は吐けない。ただ正論でないと、作品のインパクトに欠ける。関心を抱かせないと、興行は広がらない。二律背反に陥った。いったい、どうしたらいいのか。

ここは非情な判断を選択したい。やはり、日本人にわかりやすい邦題を作るのだ。もちろん、それだけでは全く足りない。わかっている。とはいえ、少しでも作品を観客に届けることが最優先と思う。初登場10位の本作の興行は厳しい。正論めいた理由は述べない。この素晴らしい作品が埋もれていく。アカデミー賞の結果待ちでは寂しい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)