毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.2.09
特選掘り出し!:「瞳をとじて」 寡作なエリセ監督、31年ぶり
日本でも愛され続けている名作「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセ監督。寡作な映画作家として知られているエリセから、実に31年ぶりとなる長編が届いた。〝映画についての映画〟でもあるこの新作は、1940年生まれの監督にとって集大成であり、新たな代表作と呼ぶべき作品だろう。
映画監督のミゲル(マノロ・ソロ)が手がけている「別れのまなざし」の撮影中に突然、親友であり主演俳優のフリオ(ホセ・コロナド)が姿を消してしまう。22年後、隠居同然の暮らしをしていたミゲルは、フリオの失踪の真相を追うテレビ番組に出演。ともに過ごした日々を振り返るうちに、フリオに似た男が海辺の施設にいるという知らせが入る。
大切な人を捜すミステリー調の物語の中で交錯していくのは、記憶と未完の映画、そして今。エリセは「ミツバチのささやき」の少女アナを演じたアナ・トレントをアナとして出演させ、「私はアナ」というセリフによって、過去と現在を奇跡的につなぎ合わせてみせた。老いを見つめ、失われゆくものに目を向けているが、エンディングの上映会の場面にはノスタルジーに収まらない深い余韻が残る。2時間49分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)