「ファースト・カウ」 ©︎ 2019 A24 DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.12.22

特選掘り出し!:「ファースト・カウ」 混沌を生き抜く男たち

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米インディーズ界の最重要監督の一人でありながら、日本では特集上映での紹介にとどまってきたケリー・ライカート。初めて正式公開される本作は、オレゴンが33番目の州として合衆国に加わる以前の1820年代を背景にした歴史ドラマだ。

寡黙な料理人のクッキー(ジョン・マガロ)とひょうひょうとした中国人移民のキング・ルー(オリオン・リー)が、オレゴンの未開の地で出会う。その日暮らしの2人は、英国人の富豪が所有する牛からミルクをかすめ取り、ドーナツを売ってひともうけしようと思い立つ。

現代のオレゴンで2体の白骨遺体が見つかる冒頭シーンに続いて描かれるのは、成功を夢見る2人の男が織りなす起業と友情の物語。タイトルは同地に初めて船で運ばれてきた一頭の牛から付けられたもので、秩序なき混沌(こんとん)とした世界を生き抜こうとする男たちの奮闘が、厳しくも人間味豊かに紡がれていく。

スタンダードサイズを採用した映像の陰影が素晴らしく、うっそうとした森の湿り気や匂いが伝わってくるかのよう。資本主義の萌芽(ほうが)を今に伝える物々交換の描写、衣装や美術などの細部にも目を奪われる。あらゆるショットに映画的な魅惑が息づく良作である。2時間2分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)

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