毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.01
「ゴンドラ」 感情を雄弁に伝えるセリフのない映画
小さな村にあるゴンドラの乗務員として働くことになったイバ(マチルド・イルマン)。指導を担当するもうひとりの乗務員のニノ(ニニ・ソセリア)は、航空会社のCAに憧れている。2台のゴンドラがすれ違う度、ふたりの心が近づいていく。
「ツバル TUVALU」などで知られるファイト・ヘルマー監督がジョージアで撮った、セリフのない映画。ゴンドラが交差する瞬間に目線を合わせ、長い柄のついた網で地上から収穫したリンゴを渡し、乗り場に着くとそれぞれがチェスの駒を動かす。水鉄砲を使った空中での〝銃撃戦〟もあれば、ゴンドラ自体を装飾したり、車椅子の乗客をつり下げて空中散歩させたりする大胆なシーンも。ふたりが繰り出すアイデアが愛らしい。村人たちも巻き込んだ祝祭的な演奏の先に訪れるエンディングにも、思わず頰がゆるんだ。理不尽で意地悪な駅長はさすがに戯画的すぎる気もするが、だからこそ手を携えたふたりの反撃のストーリーが盛り上がった。セリフではなく動きや音が感情を雄弁に伝え、観客の想像力への信頼を感じる作品だ。1時間25分。東京・シネマカリテ、大阪・テアトル梅田ほか。(細)
ここに注目
渓谷を渡る長距離の小さなゴンドラの、のどかかつ雄大なたたずまいにまずビックリ。セリフがない俳優たちの演技はサイレント映画のようにメリハリがあり、丹念に設計された効果音や音楽が情感をきっちり色分けする。かわいらしい小物のような、愛すべき一作。(勝)