「大いなる自由」 ©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions.jpg

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2023.7.07

この1本:「大いなる自由」 抑圧下、偏見を超える心

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

性的指向への抑圧は、精神と、そして社会的身体的自由の拘束に及ぶ。ドイツでは19世紀に男性同性愛を犯罪とする法律が制定され、撤廃されたのは1994年という。第二次世界大戦終結後から20年以上に及ぶ2人の男の葛藤を通し、自由を奪われることの悲劇を描き出す。

68年、ハンス(フランツ・ロゴフスキ)は同性愛を禁じた刑法175条を犯したと投獄され、旧知のビクトール(ゲオルク・フリードリヒ)と再会した。2人の出会いは終戦直後の46年。既に服役中だったビクトールは、同房のハンスが175条違反と知って嫌悪する。しかし彼がナチスの収容所から直送されたと気付くと動揺し、少しずつ心を通わせていく。ハンスは同性愛者であることを隠さず、出所と再収監を繰り返し、長期刑のビクトールと何度も再会していたのだ。

ハンスは刑務所でも同性を愛し、監視の目をくぐって密会を重ねる。誇りを捨てず、といってあらがうこともできず理不尽な状況を受け入れるしかない。ビクトールは、刑務所でも差別されるハンスを見守り、時に便宜を図ってやる。映画の主題は同性愛者への差別と偏見だが、物語は抑圧的な状況での友情を軸に展開する。同性愛者を「変態」とする社会と同質だったビクトールは、ハンスを一人の悩める人間として見直すのだ。ビクトールの変化を通して、諦めと誇りがない交ぜになったハンスの内面を掘り下げていく。

物語は時制を行き来しながら、ほとんど刑務所の中で展開する。舞台の変化は乏しいものの、ロゴフスキは時代に合わせ、外見ばかりでなく体格も変え、口数少ないハンスの思いをまなざしに漂わせる。手持ちのカメラは過酷な刑務所での日々をリアリズムで描写し、ロゴフスキの演技に説得力を与えた。

69年に21歳以上の同性愛が違法とされなくなりハンスの状況も一変するが、抑圧的な社会と刑務所を行き来していたハンスに、居場所はあるのか。終幕には悲しさと静かな怒りが漂っている。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した。セバスティアン・マイゼ監督。1時間56分。東京・Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(勝)

ここに注目

摘発のために男子トイレを隠しカメラで撮影した映像から始まり、ただ人を愛することが法律で罰せられる理不尽な現実を、これでもかと描く。けれどもハンスは聖書に穴を開けてラブレターをつづり、何度独房に入れられても愛することを諦めない。監督は闇を描きながらも、たばこやマッチの光にハンスの心の中にある希望を重ね合わせているかのようだ。時代が変わった時、ハンスに残ったものは何か。衝撃的とも言える幕切れを見届ける頃には「大いなる自由」というタイトルが重い問いを投げかけてくる。(細)

技あり

ドイツ東部の旧刑務所で撮ったことが迫真の出来につながった。実物の方が現実に迫れても、窮屈でカビ臭く、現場全員が我慢比べを強いられる。マイゼ監督は「クリステル・フルニエ撮影監督の作った光の数々が、物語にふさわしい彩りになった」と言う。薄汚れた青灰色の壁に、黄色の光が垂れ幕のように重なる屋内。全階吹き抜けの鉄の階段と、後ろの明かり取り。夜は大きなかさがついた白熱灯。独房は外光と、夜は入り口上の電灯。カバーのガラスに虫が飛ぶカットが本編唯一の人物が映らない実景場面だ。フルニエは小技の達人、ヨーロッパ映画賞撮影賞は当然だ。(渡)

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