「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」 © 2024 FOCUS FEATURES LLC

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2024.6.21

この1本:「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」 苦み利いた人生ドラマ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「Holdover」は「残り物」、この映画では年末休暇に寄宿制学校の学生寮に取り残された居残りたちのことだ。1970年、冬の米ボストンを舞台に、肩を寄せ合う3人のはみ出し者たちを描く。アレクサンダー・ペイン監督による、味わい深い人生ドラマだ。

古代史の講師、ポール(ポール・ジアマッティ)は容赦ない毒舌で生徒たちをやり込め、成績不良者に落第を言い渡す嫌われ者。斜視でクサいと陰口をたたかれ、生徒からも同僚からも煙たがられていた。クリスマス休暇を前に寮の留守番を押しつけられて、帰省できない生徒を監督し面倒を見るはめになった。

居残る生徒はアンガス(ドミニク・セッサ)だけ。スキー旅行を楽しみにしていたのに恋人と過ごす母親に帰ってくるなと言い渡されて、ふて腐れている。頭ごなしに押さえつけるポールと反発し合い、住み込みの料理長メアリー(ダバイン・ジョイ・ランドルフ)が、2人の間で緩衝材となる。初めはギクシャクした関係は、イヤイヤ顔を突き合わせるうちに少しずつ和らいでいく。ポールは厳しさの裏にぶれない公平さを見せ、母を慕うアンガスは優しさをのぞかせる。3人は傷や痛みも分かち合って、少しずつ打ち解けていく。

ここから心温まる交流が生まれ幸せなクリスマス、とは行かないところがペイン監督である。3人は癒やしがたい傷を持つ。キャリアは長くても非常勤のポールの過去、アンガスの家族の秘密。メアリーはベトナム戦争で亡くした息子の面影を追い続ける。それぞれが抱えた孤独と絶望が明らかになって、甘くなりかかった物語に、苦みを強く利かせてゆく。

機微を心得たデビッド・ヘミングソンの脚本を、ペイン監督は時代の音楽や風俗を織り込んで軽やかに調理した。渋いジアマッティが絶品で、ジョイ・ランドルフの米アカデミー賞助演女優賞も、彼が作った基盤があってこそと思わせる。じっくりとかみしめたくなる、大人の映画である。2時間13分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

ジアマッティが、ペイン監督とタッグを組んだ「サイドウェイ」と同じく教師を演じているが、キャラクターは全く違う。近くにいたら厄介な人物像を悲哀も含めてチャーミングに演じられるのは、ジアマッティの底力だろう。何かが欠けている3人が取り繕わず本音をぶつけるセリフにはユーモアも漂い、悪口のバリエーションの豊富さについ噴き出してしまうシーンも。連帯という大げさな言葉は似合わないが、不器用な人と人とがつながった瞬間をさりげなくすくいとる、熟練の語り口が心に染みる。(細)

ここに注目

かつてはアカデミー賞の常連でありながら、ずいぶんご無沙汰だったペイン監督、この新作が何と6年ぶり。派手さはなくとも市井の人々の人情の機微をこまやかに描く作風は健在で、本作でも問題を抱えた不器用な人間たちの心模様を哀歓豊かに紡ぎ上げた。「ヒットマンズ・レクイエム」が素晴らしかった撮影監督アイジル・ブリルドによる映像がアナログな肌触りを感じさせ、ニューイングランドの冬景色も情緒豊か。「いまを生きる」に代表される寄宿学校ものの良作としても胸に染み入る一本。(諭)

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