「ジョイランド わたしの願い」

「ジョイランド わたしの願い」©2022 Joyland LLC

2024.10.18

「ジョイランド わたしの願い」 鮮やかな色彩と深い陰影で描き出す生きづらき社会

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

パキスタン・ラホールに住むラナ家の次男ハイダルがようやく見つけた仕事は、トランスジェンダーの踊り手、ビバのバックダンサー。ハイダルは次第にビバにひかれ、妻ムムターズに隠れて会うようになる。

家父長制が支配する社会で自分らしく生きようとする少数派の物語ではあるが、因習のくびきを振り切ってメデタシ、という予定調和では終わらない。物語はずっと重層的なのだ。

ムムターズはメークの仕事に生きがいを感じていたのに、ハイダルが働き出すと家に閉じ込められ、追い詰められる。ハイダルは家事を楽しんでいても、男としては半人前。家長のアマンは絶対権力者だが車椅子生活で、女たちに頼らざるを得ない。トランスジェンダーへの差別に、独力で立ち向かうビバが、彼らと対比される。

社会階層に性的指向まで絡み合い、自由や個性といったテーマを複雑に織り込んだ。情感の演出も巧みで、希少なパキスタン映画の高水準にびっくり。カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した。サーイム・サーディク監督。2時間7分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほか。(勝)

ここに注目

カラフルな画面に目を見張り、家父長制が生み出す生きづらさを深い陰影で強烈に表現した。犠牲になったものを映す闇はどこまでも暗く一目瞭然。ハイダルとビバのラブシーンを祝福するライトも鮮やか。メリハリのある映像美はサーディク監督の思いを的確に反映させるアクセントになった。(鈴)

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