「女優は泣かない」 ©「女優は泣かない」製作委員会

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2023.12.01

特選掘り出し!:「女優は泣かない」 分かっていてもジンとくる

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

スキャンダルで落ち目の女優、梨枝(蓮佛美沙子)が、密着ドキュメンタリー撮影のため熊本県に帰郷した。担当するのはドラマ志望のディレクター、咲(伊藤万理華)。双方とも不本意な仕事で、咲は自分の書いた脚本を〝演出〟と言い張ってやらせ映像を強要し、梨枝は家族との確執から地元で目立ちたくない。しかし一方で、2人の人生一発逆転はこの企画に懸かっていて、次第に同志的連帯が生まれていく。

崖っぷちの負け犬が、虚飾と虚栄を振り捨て本気で仕事と向き合って再起のきっかけをつかむ――というこの手の物語の定石をきちんと押さえつつ、人物造形が魅力的。梨枝の父親はがんで入院中。家出同然で上京し姉の結婚式もすっぽかしたのに、帰郷は番組のため。家族との対面が気まずい。同期に先を越されて焦る咲は、思い通りの画(え)が撮れないと文句ばかり。ぶつかり合う2人の間に、梨枝の幼なじみで空気を読まないタクシー運転手、拓郎(上川周作)を配し、とぼけた空気を導入する。

かくしてプロの表現者としての意地と覚悟を決めていく2人が生き生きと立ち上がり、展開は分かっていながらジンとくる。有働佳史監督。1時間57分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか。大阪・シネ・リーブル梅田(15日から)など順次全国でも。(勝)

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