「きみの色」

「きみの色」 ©2024「きみの色」製作委員会

2024.8.30

特選掘り出し!:「きみの色」 心優しき世界、じわじわと

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

今年はアニメーションが豊作。「きみの色」は、「映画 けいおん!」「映画 聲の形」「リズと青い鳥」などの山田尚子監督による、オリジナルの新作だ。脚本は「聲の形」でも組んだ吉田玲子。

高校生のトツ子(声・鈴川紗由)は、人の「色」が見える感覚の持ち主だ。町外れの古書店で、同じ学校を退学したきみ(高石あかり)、音楽好きのルイ(木戸大聖)と出会い、バンドを組むことになった。きみは一緒に暮らす祖母に退学したことを打ち明けられず、ルイも、医学部受験を期待する母親にバンド活動を隠していた。

秘密を抱えた3人が音楽でつながり、曲を奏でることで解放される青春音楽映画。ではあるが、障害や葛藤を乗り越えて舞台ではじける、という一直線の展開にはあらず。天真らんまんで楽天的なトツ子を中心に、3人は穏やかに友情を育み、音楽の楽しさを体験してゆく。周囲の大人たちも壁となって立ちはだかるより、叱咤(しった)激励する存在として配される。平穏すぎて物足りなさも覚える半面、明るい色合いで描かれた心優しき世界がじわじわと広がってゆく独特な感覚は、けっこう心地よい。1時間41分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

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