毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.9.22
時代の目:「国葬の日」 無関心、浮き彫りに
昨年9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われた。東京、福島、沖縄、奈良、静岡、広島、長崎など10都市でカメラを回し、国葬や安倍元首相に対する人々の声を論評なしにつないだドキュメンタリー作品。
もっとも気になったのは「どちらかというと」と前置きする人の発言。メディアで何度も耳にした評論家の言葉をそのまま語る人、世間が騒いでいるから、無関心とは言われない程度の(無)関心のまま言葉を発している人の多さだ。
世論調査では反対6割、賛成4割と言われたが、「国葬など(ほとんど)関心がない」という人が実際はかなりの比率を占めていたと見て取れた。安倍元首相や国葬へのリアルな思いよりも、無関心という現実の一端を突き付けられた。大島新監督は「完成版を見て困惑」したという。
ならば、今からでも政治に無関心な人たち、現実を直視しない人たちを揺り動かさねばならない。防衛費増額、物価高騰、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)、人権……課題山積の今。無関心は権力の暴走を後押しし、劣悪な社会を生み出す。それを改めて気づかせてくれたことに、本作の価値を見いだしたい。1時間28分。東京・ポレポレ東中野ほかで公開中、大阪・第七藝術劇場で23日から。(鈴)