ひとしねま

2023.4.28

私と映画館:〝乱見〟の楽しみ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

札幌市で学生時代を過ごした1980年代後半、「テアトルポー」という名画座に通った。大学からほど近い札幌駅北口、階段を下りた地下にあって、学生料金なんと300円! 当時でも大人封切りは1500円だったから、激安どころではない。いったいどうやって採算を取っていたのか、当時も今も不思議だ。

200席以上あったからそこそこの大きさで、洋邦問わず、公開からしばらくたった映画を次々と上映していたように思う。ジョン・カーペンター監督のSF映画「遊星からの物体X」を見て興奮したのは、たしかこの映画館だった。

映画はたくさん見たいが金はない。レンタルビデオ(DVDではなく)だって1泊2日で500円程度、そもそもビデオデッキは学生にはぜいたく品。封切り料金を払うとなると作品選びも慎重になるが、300円なら失敗しても損は小さい。とはいえお金は払っているから途中で出るのももったいなくて、つまらなくても最後まで見る。そうすると、どこかしら面白いところが見つかるし、つまらない理由もなんとなく気付く。

今ならサブスクで見放題だが、映画館の暗闇に身を沈めてスクリーンに向かう至福は味わえない。

札幌駅は再開発されて立派になり、テアトルポーももうない。しかし片っ端から見る、乱読ならぬ乱見の楽しみは、今でも続いている。【勝田友巳】

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