ひとしねま

2023.7.28

私と映画館:ずっと続いている感動

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

高校を卒業するまで、近くに映画館が一軒もない東北の田舎町で育った。愛読していた雑誌は、多くの同世代の少女たちと同じように「オリーブ」。紹介されていた名画をVHSビデオで見るため、田んぼに囲まれたレンタルショップへ自転車を走らせることもあった。しかし、公開したばかりの映画となるとそうはいかない。「オリーブ少女は、映画に夢中!」という特集でジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」のおしゃれを再現するページを読み、都会ではこういう映画をいつでも見られるのだなと東京及びミニシアターへの憧れを抱いたことを覚えている。

進学のために上京した頃、渋谷を中心にミニシアターブームが起きていた。シネマライズで「ポンヌフの恋人」を見てパリ旅行をいきなり計画したり、パルコで「ベティ・ブルー インテグラル」を見た日にポスターを買って部屋に飾ったり。ミニシアターには、私のようにマニアックではない観客が、ミーハーにアート系の映画を楽しむことを、おおらかに受け止める空気があった。20代でアンティーク着物に夢中になった時は、古い邦画を見たくて名画座通いをした。見たい映画がどこかで上映されている東京って、なんていい街なんだろう。上京した頃と同じように、ずっとそのことに感動している自分がいる。(映画ライター・細谷美香)

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