「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

2023.7.21

この1本:「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」 体張ったアクション満載

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画草創期のバスター・キートンから、生身のアクションは映画の最大の魅力。コンピューターグラフィックス(CG)が進化して見かけがいくら派手になっても、体を張った躍動の危ない魅力にはかなわない。トム・クルーズは年齢をものともせず、膨大な製作費と緻密な準備を重ねて限界に挑み続ける。その情熱、やみくもに高さと速さを追求した香港時代の若きジャッキー・チェンを思わせ、さらに上を行くかもしれない。

イーサン・ハント(クルーズ)率いるIMF(不可能作戦部隊)の活躍を描くシリーズ7作目。エンティティーと呼ばれる人工知能(AI)が暴走し、世界が大混乱。ハントへの指令は、エンティティーを統御する2本で1組の鍵を手に入れること。各国の情報機関や武器商人が、その行方を追っていた。

クルーズは還暦を超えているとは思えぬキレとスピード感を保ち、世界各地の名所旧跡で大暴れ。砂漠で銃撃戦をしたかと思えば巨大な空港で追いかけっこ。ベネチアの迷路のような路地を全力疾走し、バイクと車の曲乗りでローマの公道を爆走する。

極めつきは、バイクに乗ったまま断崖絶壁からの大ジャンプ。はるか下を走る列車に飛び移るという目的はおよそ荒唐無稽(むけい)だが、彼がやれば曲芸に終わらず、物語の一部として納得してしまう。さらに宙づりになった車両の中で、重力を相手にした大立ち回りも。これだけ見せてくれたらおなかいっぱいだ。

物語が派手なアクションに埋没しないのは、ハントと仲間たちの関係性が浮力となっているから。常連のルーサー(ビング・レイムス)、ベンジー(サイモン・ペッグ)、イルサ(レベッカ・ファーガソン)の力を借り、彼らを守るために、ハントは苦境に身を投じる。今回は新たな登場人物も加わり、さらにハントのIMF以前の過去まで絡んでくる。

アクションの規模とともに、尺も長くなるこのシリーズ。2時間43分の本作は過去最長にしてまだ前編。クルーズの熱意に敬意を表しつつ、2024年公開予定の完結編を待とう。その価値は十分ある。クリストファー・マッカリー監督。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

まさに疾風怒濤(どとう)、危機一髪のアクションシーンのつるべ打ち。あくまで筆者の体感比較だが、1本あたりのアクション占有率はシリーズで最も高いのではないか。しかも重力の法則を無視したCGっぽさを排除し、本物の臨場感を追求したクルーズとスタッフの意気込みが結実し、車、バイク、列車などの乗り物と多様なロケーションを融合させたスペクタクルに息をのむ。一方、〝2本の鍵〟をマクガフィン(物語を動かすためのアイテム)に仕立て、ひたすらIMFチームと敵の争奪戦が展開する話はとことんシンプル。そこは好みが分かれそう。(諭)

ここに注目

メーキング映像では、崖からバイクで飛び降りるスタントなしのアクションに度肝を抜かれたが、それは序章に過ぎなかったという驚きが最後まで続く。危機一髪が何度も訪れる列車でのアクションシーンには数々のアイデアも含まれ、見応えたっぷり。そうかと思えば、思わずくすりとしてしまうような街中でのチャーミングなカーチェイスもある。クルーズは一体どこを目指しているのか?とも思うが、スクリーンで鑑賞するからこそ得られる喜びと、AIではなく人間ができることの可能性を彼自身が証明していくという宣言でもあるのだろう。(細)