「アリスとテレスのまぼろし工場」 ©新見伏製鐵保存会

「アリスとテレスのまぼろし工場」 ©新見伏製鐵保存会

2023.9.15

特選掘り出し!:「アリスとテレスのまぼろし工場」 少年たちの情動みずみずしく

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

アニメーション「さよならの朝に約束の花をかざろう」の岡田麿里監督の第2作。中学生の正宗(声・榎木淳弥)は製鉄所の爆発以来、何年も時間が流れず、人々の成長も止まった町で暮らす。変わることは悪とされ、同じ状態でいることを強いられていた。ある日、級友の睦実(声・上田麗奈)の案内で立ち入り禁止区域に忍び込み、町で唯一成長し続ける少女(声・久野美咲)と出会う。正宗はやがて町の秘密を知り、自らの意思で行動を起こす。

閉塞(へいそく)感と諦めが支配するディストピアは、コロナ禍の日々と重なる。町の人々が災厄を受け入れ、権力者の指示に諾々と従って救済を待つ姿も当世風。しかし保守的な大人に子どもたちが反抗するのは不変の摂理。岡田監督が描く反乱は、思想ではなく恋心が推進力となって子どもたちを突き動かす。思春期の少年たちの、抑えきれない情動をみずみずしく、そして力強く描き出す。

舞台設定は壮大なファンタジーだが、物語は個に集約される。世界の行く末はどうなるのかといささか気になるが、今、ここにある思いを貫くために全てを懸けるいちずさが、岡田アニメの真骨頂。スタジオMAPPA製作による映像が美しい。1時間51分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

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