毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.5.10
特選掘り出し!:「胸騒ぎ」 言葉失う暗黒の結末
世の中の多くの映画は勇気や希望といったポジティブなテーマをうたうが、それとは全く逆の悪意や絶望を突きつけてくる異端的作品も存在する。このデンマークとオランダの合作映画がまさにそれだ。
イタリアの避暑地から帰国したデンマーク人夫婦ビャアンとルイーセが、その休暇中に親しくなったオランダ人夫婦に招待され、田舎にある彼らの自宅を訪れる。ところが再会後まもなくビャアンらは、オランダ人夫婦の不可解な言動に翻弄(ほんろう)されることに。
中盤までは、文化の違いやコミュニケーションの齟齬(そご)から生じる気まずさと違和感を描く心理スリラー仕立て。まさに嫌な〝胸騒ぎ〟を誘われる内容だが、後半の衝撃的な展開はそれどころではない。理不尽すぎる終盤の悪夢と、その先の暗黒の結末に言葉を失う。
気弱な人にはとても勧められない一作だが、ただの悪趣味映画ではない。悪魔のようなオランダ人夫婦が常識的なデンマーク人を絡め取る様は、おぞましい完全犯罪のよう。他者への気遣いを忘れない日本人は、デンマーク人夫婦の側に感情移入して、間違いなく恐怖のどん底に突き落とされるだろう。クリスチャン・タフドルップ監督。1時間37分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネマート心斎橋ほか。(諭)