シネマの週末

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2023.6.30

私と映画館:魔界への入り口

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

幼い頃から超常現象や未確認生物に興味津々だった筆者は、当然のように怪しげな映画に魅了された。雑誌「ロードショー」を買い、積極的に見始めたのは小学4年生の頃だが、茨城県の地元には映画館がない。そのためバスで利根川を越え、千葉県野田市の野田銀映に通った。野田銀映では洋画の娯楽大作もかかったが、特に胸がときめいたのは恐怖映画の2本立てだ。

ところが一度、館主のおじさんに入場を断られた。残酷ドキュメンタリー「グレートハンティング」(1975年)にライオンが人を食う場面があり、「子供には見せられない」というのだ。筆者の目当ては「悪魔のいけにえ」(74年)のトビー・フーパーの新作「悪魔の沼」(76年)だったので、「そっちだけでも見せてほしい」と必死に食い下がったが駄目だった。

諦めきれずに翌日行ったら、今度は受付のおばさんがあっさり入れてくれた。「悪魔の沼」は田舎のモーテルの主人が宿泊客を殺してワニのエサにするという猟奇映画で、こちらの方が「グレートハンティング」よりはるかに「子供には見せられない」異常な場面の連続だった。

ますます怪しい映画の虜(とりこ)になった筆者は、その後まもなく「サスペリア」(77年)に衝撃を受けた。まさしく野田銀映は、純真な映画少年の人生を狂わせる「魔界への入り口」だった。(映画ライター・高橋諭治)

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