「NO 選挙,NO LIFE」 ©ネツゲン

「NO 選挙,NO LIFE」 ©ネツゲン

2023.11.17

「NO 選挙,NO LIFE」 取材者までも狂わせる選挙の非日常性

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

全国の選挙を取材するフリーライター、畠山理仁(みちよし)を追ったドキュメンタリー。全候補者に直接取材するのが畠山の流儀。2022年7月の参院選では、東京選挙区の候補34人に話を聞くために、公示日の立候補届け出会場で待ち受けてカメラを向け、街頭演説の場所を調べて東京中を走り回り、果ては最後に残った1人が応援演説した長野にまで駆けつける。原稿料では赤字になることもあるそうで、家族を抱えて「もう限界」とこぼしながら、「卒業旅行」と称して沖縄県知事選を取材する。

新聞などのメディアの選挙取材は「本命」中心。有力候補以外は〝泡沫(ほうまつ)〟などと呼んで目も向けない。しかし畠山の前に立つ候補の思いは熱く、とんでもない発想でも真顔で語る姿につい引き込まれる。取材先で理不尽な目に遭う憤りや、「投票率が上がってほしい」というつぶやきにも共感。

民主主義の土台である選挙の重要性を改めて感じさせると同時に、取材者までも狂わせる非日常性の興奮も伝わるのである。前田亜紀監督。1時間49分。東京・ポレポレ東中野ほか。大阪・第七藝術劇場(12月16日から)など順次全国でも。(勝)

異論あり

畠山が取材対象者に真摯(しんし)に立ち向かう姿は痛快だ。選挙は出馬する側だけでなく、取材側も中毒にさせる〝魅力〟がある。畠山がその呪縛で身動きが取れないのも明らか。表層だけでは候補者の真の姿や政治の実相は見えづらい。シンプルな演出や映像に終始し物足りない。(鈴)