「No.10」 © 2021 GRANIET FILM CZAR FILM BNNVARA.

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2024.4.12

特選掘り出し!:「No.10」 斜め上行く啞然呆然の一作

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

かつて見たことがないほどユニークで刺激的な問題作、衝撃作を発見する。それはまさしく私たち映画ファンが世界中の作品を物色する醍醐味(だいごみ)の一つだが、知る人ぞ知るオランダの鬼才アレックス・ファン・バーメルダムが放った本作は、数年に1度出くわすかどうかという啞然呆然(あぜんぼうぜん)の一作だ。

演劇俳優のギュンター(トム・デュイスペレール)は新作舞台の稽古(けいこ)場に通いながら、演出家の妻である共演者との逢瀬(おうせ)を重ねている。その日常を何者かが監視するなか、不倫がバレたギュンターは劇団でひどい仕打ちを受けるが、彼の行く手にはさらなる信じがたい事態が待っていた。

小劇団の人間模様のもつれを描く愛憎ドラマか、はたまたヒッチコック風の巨大な陰謀劇なのか。どうやらギュンターには幼い頃、森に捨てられ里親に育てられた過去があるらしい。バーメルダム監督は冷徹なまでに簡潔な語り口で映画をじわりと謎めかせ、不穏なサスペンスを漂わせていく。中盤以降の急展開は観客の予測のはるか斜め上を行き、私たち地球人の常識を根こそぎひっくり返す。これぞ未知との遭遇。映画とはここまで自由に、でたらめになれるのかと驚嘆させられた。1時間41分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)