「父は憶えている」 ©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

「父は憶えている」 ©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films

2023.12.01

「父は憶えている」 ぬくもりとともに伝わる変わらぬものへの思い

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

キルギスの村。23年前にロシアに出稼ぎに行き、行方不明になっていたというザールクが帰ってくる。息子(ミルラン・アブディカリコフ)の家族は記憶と言葉を失った父を迎え入れるが、妻(タアライカン・アバゾバ)はすでに村の権力者と再婚していた。

監督、脚本、主演を務めているのは、「馬を放つ」などで知られるキルギスの名匠、アクタン・アリム・クバト。冒頭では、川が流れ、自然豊かな村の全景が映し出される。しかしどうやらこの村では、大きな変化も起こっているようだ。放置されたゴミの山、権力者の圧力、イスラム教の台頭。穏やかな暮らしの中にある、女性の立場の弱さも描かれている。

ザールクは何も語らないまま村のゴミを片付け続け、監督もまた誰を裁くことなく、彼を取り巻く村の人々の衝突や、家族の悲哀を淡々とスケッチしていく。それだけに鮮やかな印象を残すのは、古い友人たちや妻が歌う郷愁を誘う歌。変わっていく社会の中に残る変わらぬものへの思いが、ぬくもりとともに伝わってくる。1時間45分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

ザールクは無表情で無口な〝デッドパン〟。コメディー映画なら彼の周りのドタバタが笑いとなるところだが、本作では鏡のよう。愛情や敵意や反発や友情が注がれて、その関係性や状況を映し出す。進んでするのは、ゴミ拾いと木を白く塗ること。とぼけたおかしさも漂っている。(勝)

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