「私、オルガ・ヘプナロヴァー」

「私、オルガ・ヘプナロヴァー」

2023.4.28

「私、オルガ・ヘプナロヴァー」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チェコスロバキア史上最後の死刑囚として、1975年に絞首刑に処せられたオルガ・ヘプナロヴァーの伝記映画である。13歳の時に精神安定剤を過剰摂取して自殺未遂を起こしたオルガが、病院で治療を受けたのち、運転手として働き始める。しかし世間になじめず、やるせない孤立感を深めた彼女は、取り返しのつかない行動に出る。

近年は女性の生きづらさを主題にした映画が盛んに作られているが、本作は22歳の若さで8人の命を奪う大量殺人者となった女性の物語。チェコの新人監督トマーシュ・バインレプ、ペトル・カズダは、オルガを苦しめたという父親の虐待や心の病などのエピソードは最小限にとどめ、静的なモノクロームの固定ショットを連ねていく。スクリーンに揺らめくのは、家庭にも社会にも居場所を見いだせず、最後の心のよりどころを失って絶望の淵にたたずむ女性の肖像だ。ショートボブの髪形と怒りをたたえた瞳で、オルガの孤独を体現した主演女優ミハリナ・オルシャニスカが素晴らしい。1時間45分。東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・シネ・リーブル梅田(5月12日から)ほか。(諭)

ここに注目

ミハリナ・オルシャニスカは、怒りと反発から孤独感と疎外感を募らせて絶望し、犯行直前には冷静ささえまとったオルガを淡々と演じた。オルガの心境に呼応するかのように、無機質な映像は絞首刑に至るまで一貫しており、感情の入り込む隙間(すきま)を拒絶するリアリズムで描かれている。(鈴)