「屋根裏のラジャー」 ©2023Ponoc

「屋根裏のラジャー」 ©2023Ponoc

2023.12.15

時代の目:「屋根裏のラジャー」 力強くも切ない感慨に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

英国の児童文学が原作のアニメーション。ラジャー(声・寺田心)はアマンダ(声・鈴木梨央)にしか見えない空想の友達「イマジナリ」。イマジナリはかけがえのない存在だが、子どもが成長すれば忘れられ、消えてしまう宿命だ。ある時アマンダが事故に遭い、消えかかったラジャーは、子どもたちに忘れられたイマジナリの世界へと連れられてゆく。一方、イマジナリを食べて生き続ける人間のバンティング(声・イッセー尾形)が、しつこくラジャーに迫ってくる。

物語の視点は人間の子どもではなく、イマジナリの側にある。アマンダ(とバンティング)以外の人間にとっては存在しないラジャーが、アマンダに会いたい一念でバンティングと闘い、運命に逆らおうと奮闘する。存在ははかないのに、思いは本物。そのあいまいさが、フランスの技術陣の手を借りた独特の光の中で美しく表現されている。そしてアマンダとラジャーの思いに、アマンダの母親の子ども時代が重なると、力強くも切ない感慨が湧き起こる。

製作したスタジオポノックにはジブリアニメを支えたスタッフが集まる。子どもの力を信じ、支えるファンタジーは、ジブリの正統的後継かも。百瀬義行監督。1時間49分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

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