毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.7.19
「幸せのイタリアーノ」 上質な大人のラブコメディー
スポーツシューズブランドの社長ジャンニは49歳。独身で、日替わりで女性を口説くプレーボーイだ。会社では威圧的で傲慢、障害者ユーザーを意識した商品開発を提案した非正規社員にその場でクビを宣告する。そんなジャンニはある日、車いすテニスに打ち込むバイオリニストのキアラに目がくぎ付けになり、身体障害者を装って近づく。
日本でも2019年に公開されたフランス映画「パリ、噓(うそ)つきな恋」のリメーク作。上質な大人のラブコメディーといっていい。ピエルフランチェスコ・ファビーノが、あらゆる方面から非難されそうなハラスメント男とその心の生まれ変わりをたくみに表現し、眉をひそめる向きもあるだろうストーリーを空中分解させずに着地させた。強さと優しさを兼ね備えた障害者という役柄を演じたミリアム・レオーネにも注目だ。それにしても。タイトルは原題の「Corro da te(あなたのもとに走る)」のほうがいいのに……と思った人は、結構いるのでは。リッカルド・ミラーニ監督。1時間53分。東京・シネスイッチ銀座ほかで26日から。大阪・テアトル梅田(8月2日から)ほか全国でも。(坂)
ここに注目
フランス版に比べ、女性に積極的で〝いかにも〟なイタリア男の濃厚さが充満。一方で、田園風景があくの強さを薄め、ユーモアが物語を軽快にした。的を射た音楽の使い方がテンポを生み出し、キアラの言動は作品の柱になった。ベタだがバランスのとれた佳品。(鈴)