「青春」 © 2023 Gladys Glover - House on Fire - CS Production - ARTE France Cinéma - Les Films Fauves - Volya Films – WANG bing

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2024.4.19

「青春」 名もなき若者たちの虚飾のない〝生〟

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「鉄西区」「無言歌」の中国人監督ワン・ビンが、長江下流のデルタ地域に位置する浙江省湖州市の織里という町で、長期撮影を実施したドキュメンタリーである。子供服の一大生産地である織里には約2万の縫製工場がひしめき、撮影当時は約30万人の出稼ぎ労働者が雇用されていたという。いくつかの工場内にカメラを持ち込み、そこで働く10代から20代の若者たちの日常を記録した。

狭苦しい作業場での1日の仕事は朝から深夜におよび、休憩時間はわずか。しかし個人運営の工場ゆえに締めつけは緩く、若者たちは猛スピードでミシンを動かしながら大声で歌ったり、仲間とじゃれ合ったりしてストレスを発散し、過酷な環境に適応している。そこには涙ぐましい恋のさやあてや、雇用主との切実な賃金交渉もある。ワン監督は被写体と一定の距離を保ち、特定の個人に焦点をあてることなく、名もなき若者たちの虚飾のない〝生〟を写し取った。

経済的観点においてもユニークなこの作品、将来的には9時間超の3部作になるという。3時間35分。東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・第七藝術劇場ほか。(諭)

ここに注目

労働者が団結し、雇用主と賃上げ交渉。いかにも資本主義的光景が、中国で展開する。もっとも雇用主は逆ギレして怒り出すし、若者たちもおっかなびっくり。長時間の単純作業の中にも楽しみを見いだし、働きがいを求める彼らの姿は初々しく、たくましい。(勝)

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