「青春墓場」 © 映画蛮族

「青春墓場」 © 映画蛮族

2023.7.14

「青春墓場」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

中華料理店で働く男はパートの中年女性から「息子がいじめに遭っているので相談に乗ってほしい」と頼まれる。男は渋々引き受けるが息子はいじめを認めようとせず、暴力沙汰に巻き込まれる。一方、漫画家志望の青年は、合コンで劇団員の女性と出会う。一緒に暮らすうちに愛情がわくが、かつての恋人から連絡が入る。

いじめに連なる暴力とラブストーリーという異質の物語が交錯し、予想だにしない悲劇が突然生まれる。2組の人生の一端に触れてきた観客は衝撃と戸惑いを同時に覚えるだろう。いったい何がどうなっているのかとあっけにとられるに違いない。

奥田庸介監督は、「東京プレイボーイクラブ」などで激しい暴力を描いてきた。今作では、これまであまり描いてこなかった愛情に満ちた描写から、一足飛びに凄惨(せいさん)なバイオレンスの世界へ見る者を引きずり込む。惨劇はいつどこで起きるか分からない、とでも言いたげだ。説明や不必要なセリフを排した、強烈な作劇にはまる楽しさを実感。1時間36分。東京・ユーロスペースで公開中。大阪・第七藝術劇場(8月5日から)ほか。(鈴)

ここに注目

容赦のない暴力描写は奥田作品の特徴だが、今回はラブストーリーと対比されてより鮮烈だ。悲観的で救いのない結末に嫌悪感を覚える観客もいそうだが、奥田監督が人生を厳しく捉えた渾身(こんしん)の一作。前半と後半で雰囲気をガラリと変えながら、1本の映画として成立させた力業にも驚き。(勝)

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