毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「石門」©YGP-FILM
2025.3.07
特選掘り出し!:「石門」 浮かぶ現代女性の孤立
現代の中国で女性が直面しているジェンダーギャップ、心身の痛みに向き合った問題作だ。政治や経済のゆがみの代償を背負わされる女性を丹念に描き出した。
中国湖南省。20歳の大学生リン(ヤオ・ホングイ)は思いがけず妊娠するが、出産も中絶も気が進まない。一方、婦人科医の母は担当した妊婦が死産した責任を問われ、賠償金を請求され首が回らない。リンは母を助けようと、賠償金の代わりに自身の子供を産んで、渡すことを提案する。
生殖ビジネスやマルチ商法など、経済的論理や格差社会のゆがみをいや応なく映し出す。常に固定したカメラは、リンと、彼氏や父母、賠償相手らと一定の距離を保つことで、現代の女性の孤立を象徴的に浮かび上がらせる。共同演出のホアン・ジー&大塚竜治監督はコミカルで生活臭の漂う描写も交えつつ、性差という壁に翻弄(ほんろう)される女性を淡々と追う。撮影中に起きたコロナ禍も、右往左往する人々のリアルな感覚として映画の中に落とし込んだ。受け身だったリンは終盤、かすかな変化を示すものの、この世界への重い問いは広がるばかり。中華圏を代表する台湾・金馬奨で最優秀作品賞。性被害と初体験が題材の両監督の2作品も近く公開される。2時間28分。東京・新宿武蔵野館、大阪・テアトル梅田ほかで公開中。(鈴)