ひとしねま

2023.12.08

チャートの裏側:スタジオの弱体化

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

リドリー・スコット監督の「ナポレオン」は、動画配信大手が製作した。10月公開のマーティン・スコセッシ監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」も同様だった。2本とも大作だ。米映画界で最高峰にいると思える監督2人の新作が、なぜか配信大手で製作された。

スコット作品は歴史スペクタクルだ。スコセッシ作品は第二次世界大戦前の米国先住民と白人の話を軸にした。製作費は膨大だ。ヒットも難しいと思われる。興行を視野に入れたメジャースタジオが、簡単に関わることのできる作品ではない。巨匠監督は配信大手に頼ったのだ。

配信大手の事業の基軸は映画館相手の興行面ではない。ただ最近、興行に目を向けてきた。劇場公開すると、「映画」としてのバリューが上がる。年末から年明けの映画賞で受賞があれば、作品だけではなく会社自体の評価も高くなる。配信強化につながる。戦略性を感じる。

ここに今の米映画界の皮肉な現状がある。メジャースタジオは、どんどん保守的になる。逆に配信大手は、野心的な作品を目指す監督や製作者らと手を結ぶ。重要なのは後者ではなく前者だ。スタジオの製作能力の弱体化である。「ナポレオン」は、それほどヒットはしていない。ただ、映画の魅力が詰まっている。この現状を見ないと、今の米映画は分からなくなる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)