「テノール」 © 2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS

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2023.6.09

「テノール! 人生はハーモニー」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ラップが趣味の大学生アントワーヌ(MB14)は、配達のアルバイトで訪れたパリ・オペラ座でレッスン生に見下され、意趣返しにオペラの歌まねを披露。その美声にほれ込んだ教師マリー(ミシェル・ラロック)にスカウトされ、住む世界が違うと思いながらも兄や友人に内緒でオペラのレッスンを始める。

シンプルな物語だが、恋愛や嫉妬、将来の夢や葛藤を盛り込んだ青春映画の趣だ。ラップとクラシック、兄弟愛と師弟の絆、貧困と富裕など分かりやすい対比を見せつつ、迷いながらも自分の道を見つけていくアントワーヌにカメラが寄り添う。展開に意外性はないが、その分安心してみられることで高揚感を堪能。「トゥーランドット」や「ドン・ジョヴァンニ」などオペラの名曲もあり語り口に厚みが加わった。力ずくの終盤に、めでたしめでたし、といったところか。絢爛(けんらん)豪華なガルニエ宮にも圧倒される。一瞬、違う映画と勘違いしそうな冒頭のシーンなど、クロード・ジディ・ジュニア監督の才気を垣間見る楽しみも。1時間41分。東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほか。(鈴)

ここに注目

ラップとオペラや、パリ郊外と豪華なガルニエ宮の違いを描きつつ、未知の世界へ飛び込むアントワーヌが両者をつなぐ役割を果たす。彼を導くマリーとの出会いなど都合が良すぎる面もあるが、プッチーニ作曲「誰も寝てはならぬ」の歌詞とアントワーヌの未来が重なるようなラストに思わず涙した。(倉)

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