ひとしねま

2023.8.25

私と映画館:改造バイクがズラリ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「私と映画館」となると、どうしても若い頃=青春期の話になる。記憶が、あまりに強烈なのだ。甘酸っぱいというより、ほろ苦い。情けなくて、気恥ずかしい思い出も多い。今、ある光景が浮かんでしまった。気恥ずかしくて体全体が縮こまりそうだ。ここでは語らない。

そう決めたら、別の光景が脳裏をかすめた。これなら、いいか。出身地の浜松で、「イージー・ライダー」を見た時のことだ。1970年3月の浜松東洋劇場。高校1年生。驚きの光景があった。改造バイクが、映画館前の道路にズラリ並んだのである。浜松はバイク(地元では、ポンポンと言った)の街だ。

映画に登場する改造バイクは地方のとがった若者たちにも格好良く映っていた。そればかりか、大枚をはたいて実際に改造バイクで駆けつけてきたのだ。非業の死を遂げる主人公を見て、彼らは何を思ったか。浜松の街を爆走できることに感謝したか。今では、もう分からない。

街のメインストリートに面していた東洋劇場にはよく通った。映画好きな父が、そこの株主で優待券を持っていた。くすねて、遠州鉄道の電車に乗って赴く。今思えば、進学校に嫌気が差し、逃げていたのだ。大きな東洋劇場の一角にいる当時の自分を思ってみる。周りから見れば情けない風情だが、意外に悪い気はしない。そこからしか始められなかった。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)