ひとしねま

2024.4.26

私と映画館:パンフレット入手の楽しみ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

東京・日比谷の映画街は、中学生の頃から聖地のような存在だった。有楽座、日比谷映画、日比谷みゆき座、日比谷スカラ座、千代田劇場。日比谷映画はアクション、有楽座は文芸ものや大作、日比谷みゆき座は女性向けやアート作品と劇場に個性があった時代。なかでも、日比谷みゆき座に最も多く足を運んだ。東宝本社があったビルの地下。入り口に下りる階段から心が弾んだ。「叫びとささやき」(1974年)で芸術の奥深さに心奪われ、「ジョニーは戦場へ行った」(73年)で反戦を強く意識し、「フォロー・ミー」(同)で映画音楽を称賛し愛情の断片を知った。

日比谷や有楽町の映画街には楽しみがもう一つあった。試写会や地元で見て気に入った作品のパンフレットを、ここで買い集めた。表紙の中央下の部分に劇場名が入っていたからだ。館名入りのパンフレットは燦然(さんぜん)と輝き、宝物のように思っていた。最も多いのは、「日比谷みゆき座」と「日劇文化」「有楽座」「有楽町スバル座」あたりだろう。作品の見方や背景など随分と教えてもらった。「館名があると高く売れる」と話す友人もいたが、売る気なんてさらさらなかった。最近はめったに購入しないが、映画との良き出合いがあると、館名がなくてもつい財布のひもがゆるくなってしまうのである。(映画ライター・鈴木隆)

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