ひとしねま

2023.12.22

私と映画館:たまには誰かと

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画は1人で見に行くのが一番だ。見終わった後に互いのおなかのすき具合を気にしたり、どこかで聞いたようなそれらしい感想や分析を聞かされたりしなくてすむ。そう思っていたころのこと。その日も1人で、大好きな監督の新作を見ていた。日曜の最終上映で観客はまばら。鑑賞後のロビーも静かで、大きな窓から見える東京・新宿の夜景をぼんやり眺めながら長いエスカレーターを降りていった。頭の中では印象的なラストシーンとエンディングテーマを思い返していた。

「♪なんとか~かんとか~グラント~リ~ノ~」。気がつくと、脳内で流していたはずの曲が聞こえてくる。数㍍下を行く20代とおぼしきカップルは私と同じ映画を見ていたのだろう。おそらく普段より少し渋みをきかせた声で、タイトル以外の歌詞もあやふやなまま、目を閉じて歌い上げる男性。隣の女性は私の視線に気づき、「やめてよ、恥ずかしい~」と言いながらも楽しそうだ。大丈夫、やめないで。私も一緒に歌いたい。隣にいる彼女がうらやましかった。

帰り道、無性にアジアっぽい料理が食べたくなり、深夜も営業しているタイ料理店に行った。うん、まあまあイメージに近い、と映画に出てきた食事のシーンを思い出しながら1人であれこれ注文した。たまには誰かと一緒に映画館に行きたいな、と思いながら食べた。(主婦兼ライター・山口久美子)

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