毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.8.02
この1本:「ツイスターズ」 暑気払う冒険活劇
連日の酷暑、集中豪雨による水害など、日本の夏は気がめいるニュースが絶えない。海の向こうのアメリカもたびたび異常気象に見舞われており、とりわけ竜巻がもたらす被害はすさまじいものがある。1996年の「ツイスター」は、竜巻に立ち向かう追跡者たちの奮闘を描いた異色のパニック映画だったが、本作はその新たな現代版。これが実に見事な出来ばえなのだ。
5年前の学生時代に竜巻を追跡し、仲間を亡くしたつらい過去を持つ若き気象学者ケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)。そんな彼女が旧友に誘われ、故郷のオクラホマ州での竜巻調査に参加することに。人気ユーチューバーのタイラー(グレン・パウエル)らも現地に乗り込むなか、ケイトの行く手に想像を絶する巨大竜巻が出現する。
ある者は科学的な研究のために、ある者は「バズる」動画を追い求めて。それぞれの目的を秘めて竜巻を追う人々はストームチェイサーと呼ばれ、実際に活動中の死亡例も報告されている。しかし本作に悲壮感はない。「ミナリ」で脚光を浴びたリー・アイザック・チョン監督は、竜巻多発地帯のオクラホマで撮影を実施。畏怖(いふ)の念すら抱かせる自然現象を視覚効果で映像化しながら、主人公たちの特殊車両が険しい大地を疾走する様を爽快に見せていく。まさに追いつ追われつ、怒濤(どとう)のスリルみなぎる冒険活劇だ。
さらに「ツイスター」にも盛り込まれていた「オズの魔法使」へのオマージュをちりばめ、ロデオなどの伝統的な風景を35㍉フィルムに焼きつけた映像世界は、どこを切り取ってもアメリカン。人命を救う使命感と気象への好奇心を大きな瞳にたたえたケイト、一見軽薄だがカウボーイの開拓精神を今に受け継ぐタイラーが織りなすドラマも、ほどよくロマンチックで古き良きハリウッド映画のよう。
ちなみに「ツイスター」では「シャイニング」上映中のドライブインシアターが竜巻に吹っ飛ばされたが、本作では映画館がクライマックスの舞台となる。暑気払いにもうってつけの快作だ。2時間2分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで公開中。(諭)
ここに注目
コンピューターグラフィックスで何でもできるし、動画配信サービスなら好きなだけ映画も見られる。それでも映画館に行く価値がある作品があるのか。最近のハリウッドは、そんな命題に応えようと懸命だ。本作はその答えの一つ。巨大竜巻が全てをのみ込む恐怖と、壮大な自然の神秘とカタルシス。観客は登場人物と一緒に竜巻を追い続け、何が見えるかを体験する。ケイトとタイラーは観客を運ぶ乗り物となって、感情の波を作る。大きなスクリーンに没入し、余計なことを考えないで見てこそ楽しめそう。(勝)
ここに注目
竜巻にここまでテンションが上がるのは不謹慎では?と思ったが、臨場感と熱量に圧倒されて一気に新たな「ツイスターズ」の世界に引き込まれた。気象学者のケイトは仲間を失ったトラウマを抱え、インフルエンサーのタイラーは欲望のままに突っ走る。違いはあれど誰よりも〝竜巻おたく〟の2人が、恋愛感情ではなく知識や経験によって共鳴しあっていく、フェアな関係が気持ちいい。カウボーイが似合うタイラーは、野性味とおちゃめさを持ち合わせていて実に魅力的。スクリーンで見るならこの1本を。(細)