毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.9.23
殺人鬼から逃げる夜
コールセンターで働く若い女性ギョンミ(チン・ギジュ)が、路上で何者かに腹部を刺された少女と遭遇する。その少女を助けようとしたギョンミは、犯人のドシク(ウィ・ハジュン)に狙われ、悪夢のような運命をたどることに。
主人公のギョンミは聴覚障害者。往年のオードリー・ヘプバーン主演作「暗くなるまで待って」の系譜に連なる作品である。しかし描写のハードさに定評ある韓国製スリラーだけに、時間軸を一夜に限定した本作の緊張感たるや、すさまじい。狙いを定めた獲物の自宅にまで侵入してくる快楽殺人鬼のしつこさ、不気味さ。ゴーストタウンのように無人の町を、必死の全力疾走で逃げるギョンミと迫り来るドシクの攻防から目が離せない。やがて両者が意外な場所へたどり着くクライマックスまで一気呵成(かせい)。音響効果やアクション演出に力を込め、さりげなく社会批評も盛り込んだ新人のクォン・オスン監督、上々のデビューである。1時間44分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(諭)
ここに注目
聴覚に障害のある人は、日常生活でも予想以上に身の危険が多いそうだ。ギョンミはその上殺人鬼に追われるのだからもう大変。でも彼女が弱くてかわいそうな女の子でないところがいい。冒頭で描かれる会社員としてのたくましさも、走り、闘う姿も、かわいい顔してかっこいい。(久)