毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.9.30
「コレクティブ 国家の嘘」
ルーマニアの首都ブカレストのクラブでライブ中に火災が発生、死傷者207人の大惨事が起きる。さらに、一命を取り留めた入院患者が複数の病院で次々と死亡。あるスポーツ紙が背後に製薬会社と病院経営者、政府の癒着が隠されていることを突き止め、正義感の強い新大臣も腐敗まみれの政治や医療システムを変えようと奮闘するが……。
米アカデミー賞2部門ノミネートのドキュメンタリー。犠牲者の家族、ジャーナリスト、医療関係者らの会話や一挙手一投足に緊迫感があり、社会派のドラマを見ているようだ。隠蔽(いんぺい)された事実の告白、新大臣とスタッフの戦術会議などにもカメラが安定した形で入り込み、作り手への信頼があればこその映像に驚嘆。突破力とセンセーショナルな中身に圧倒される。スクープから新大臣の方針転換に軸が動く展開にやや戸惑いはあるが、結末を含め日本との類似点に背筋が寒くなる。アレクサンダー・ナナウ監督。1時間49分。東京・シアター・イメージフォーラム(2日から)、大阪・シネ・リーブル梅田(15日から)ほか。(鈴)
ここに注目
描かれている問題はルーマニアの政治と医療現場の癒着。しかし見ているうちに日本の現状が脳裏に浮かび、高みの見物はできなくなる。若者の命が奪われた現実は痛ましく、目を背けたくなる腐敗が描かれているが、メディアの力を信じさせてくれるドキュメンタリーだ。(細)