「俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー」より  © 2023 Amazon Content Services LLC © ben king moral rights reserved.

「俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー」より  © 2023 Amazon Content Services LLC © ben king moral rights reserved.

2024.3.18

原点回帰!「メリーに首ったけ」の ピーター・ファレリー監督最新コメディー「俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

ひとしねま

須永貴子

「グリーンブック」(2018年)でアカデミー賞の作品賞、脚本賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)を受賞したピーター・ファレリー監督の新作、「俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー」がAmazon Prime Videoで3月7日より配信中だ。
 


幼なじみ3人組の架空の友達「リッキー・スタニッキー」

なじみのディーン(ザック・エフロン)、ウェス(ジャーメイン・ファウラー)、JT(アンドリュー・サンティーノ)の3人は、大人になった今でも大親友であり悪友だ。少年時代にハロウィンのいたずらを仕掛けたところ、警察や消防隊が出動するほどの大騒動に発展してしまう。彼らは架空の人物「リッキー・スタニッキー」をでっちあげ、犯人に仕立て上げることに成功する。
 
以来、リッキー・スタニッキーは3人組にとって「実在しない(からこそ使える)親友」となった。例えば、JT夫妻のベビーシャワーの日に人気アーティスト(マーク・ラエ)のライブのチケットが手に入ったときは、がんが再発したリッキーのために病院にかけつけるふりをした。
 
そんな具合に3人は、周囲に向けて25年間にわたって何百回もうそをついてきた。リッキーにつかせたうその履歴を「バイブル」と名付けたノートに書き込み、インスタグラムに作ったリッキー・スタニッキーのアカウントをそれっぽく運営する。ご法度は、リッキーのうそを自分のためだけに使うこと。3人のためにうそをつくときしか、リッキー・スタニッキーは使えないのだ。
 
この3人が25年にわたり変わらぬ友情を保つことができているのは、リッキー・スタニッキーという秘密を共有しているからだろう。3人でうそをつけば罪悪感が3分の1になり、共犯意識やスリルというおまけがついてくる。リッキーの存在が、3人の絆をなんなら強固にしているのだ。若いうちはそれでもよかったが、それぞれに結婚相手やパートナーとの未来を見据えるようになった3人は、リッキー・スタニッキーとの関係について、すなわち自分自身の未熟さに向き合わざるをえなくなっていく。
 

ピーター・ファレリー監督がクセの強いキャラクターにたっぷりの下ネタで原点回帰

そのキーパーソンとして登場するキャラクターが、無名の俳優、ロック・ハード・ロッド(ジョン・シナ)だ。JTに息子が生まれ、ブリス(割礼式)にリッキー・スタニッキーを招かないわけにはいかなくなったとき、ディーンたちは、マーク・ラエのライブ後に出会ったロッドに連絡し、リッキー・スタニッキーを仕事として演じてほしいと依頼する。
 
ロッドに俳優としてのキャリアはほとんどなく、カジノのバーでわいせつな歌を売り物にした、ビリー・アイドルやブリトニー・スピアーズのものまねで日銭を稼いでいた。しかも借金だらけで、アルコールと筋肉増強剤の依存症だった。ところが、ロッドは完全に断酒して「バイブル」を読み込み、ディーンたち3人だけでなく周辺人物についても徹底的にリサーチし、ブリスでリッキー・スタニッキーを見事に演じきったのだ。
 
普通の映画であれば、ブリスのシーンに山場をいくつか作り、ディーンたちが痛い目に遭い、成長する方向へと進んでいくのが定石だろう。ところが本作では、ブリスでは各所でいくつかの小さなドタバタは起きるが、リッキー・スタニッキーの存在証明発表会は大成功に終わる。ディーンたちが祝杯を上げた時点で映画はまだ折り返し地点。ディーンたちがリッキー・スタニッキーの想定外の存在感に頭を悩まされるというシナリオが後半で展開する。
 
負け犬人生を歩んできたロッドはリッキー・スタニッキーという「役」を与えられ、人々に好かれることで癒やされていく。そして、リッキーのせりふに自分の正直な思いや考えを乗せることで、自分自身を取り戻していく。これはロッドにとってある種のセラピーのような経験になっていたのだ。
 
監督のピーター・ファレリーは世の中がダイバーシティだのと言い出す前から、多様なキャラクターを世俗的な笑いを交えて、当たり前のこととして映画の中に存在させてきた。同性愛者の黒人男性と保守的な白人男性の相互理解と友情の始まりを描いた「グリーンブック」は、ファレリー監督にしてはかなり直球の感動作で笑いが少なめのストイックな仕上がりだった。
 
本作ではクセの強いキャラクターとたっぷりの下ネタという原点に立ち返る。その上で、ひねりをかせた上質な脚本と「人は誰でもいつでも自分がなりたい者になれる」というストレートなメッセージで、自身のフィルモグラフィーを拡張した。
 
「俺らのマブダチ リッキー・スタニッキー」はAmazon Prime Videoで独占配信中

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

新着記事