毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.5.20
チャートの裏側:より弱い立場に深手
緊急事態宣言の延長により、東京都や大阪府では要請を受けた映画館の休業が続いている。これに伴い、新作の延期が相次いだことは以前に記した。ただ、そのまま新作が公開されている場合もある。ではいったい、延期と公開では配給会社にどのような事情の違いがあるのか。
作品ごとの興行収入において、もっとも高いシェアを持つ東京、大阪のシネコンが休業となるのは大きな痛手である。延期は感染症拡大への警戒とともに、このマイナス分を考慮した面もあると推測される。万全な興行状態を待ったほうがいいとのやむにやまれぬ選択だ。
公開に踏み切るのは、映画館では感染症対策を万全に行っているとの判断がある。一方で、先の休業のマイナス分が想定される。それを覚悟した上で、一刻も早い収益の確保に臨む。こちらも、やむにやまれぬ事情がある。延期、公開ともにリスクが高いことに変わりない。
より厳密に見れば、配給会社の経営基盤の強弱、体質の違いもあろう。今、私が心配するのは、配給、製作などを担う多くの会社の中で、特に弱い立場の会社の今後である。映画館の長引く休業は、それらの会社の息の根を止めるやもしれぬ。休業要請は、幅広い業種への影響が甚大だ。弱い立場の組織、人が一番矢面に立つ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)