チャートの裏側

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2021.3.18

チャートの裏側:心揺さぶる新たな出会い

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

新型コロナウイルス拡大による延期を経て、3月8日の月曜に公開されたアニメ大作「シン・エヴァンゲリオン劇場版:=」。テレビアニメでブームを起こし、劇場版は1997年以降6作目になる。新作は7日間で興行収入33億円を超えた。近いうちにシリーズ最高成績となろう。

日本映画の歴史から見ても、このシリーズは希有(けう)な中身を持ち、特異な興行を見せてきた。人が操るロボットによる激烈なバトル、主人公たちの多彩なキャラや人間ドラマ。細部や背景などの描写にさまざまな意味を探るオタクファンを起点に、興行はダイナミックだった。

その際、もっとも目を引いたのはコア層に見えたファンからの広がり方の輪が、とても大きかったことだ。それはテレビ版、劇場版ともに、作品が持つ世界観が普通の娯楽作の枠を超えていったからだろう。作品は心の大切な部分に突き刺さり、見る人の人生と重なったのだ。

心を、人生を揺さぶる。多くのエヴァファンは、9年ぶりの新作にその源泉と行く末を嚙(か)み締めたに違いあるまい。ロケットスタートの理由の一つがそれだ。ただ、従来ファン中心だと記録更新で終わり想定内。培った長い年月は逆に新作へのハードルにもなる。ここを超えた新たな観客との出会いがどこまであるか。大きな注目点だ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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