出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
2022.4.28
330万部を超える大ヒットシリーズ「神様のカルテ」や「臨床の砦」で知られる夏川草介の「勿忘草の咲く町で 安曇野診療記」
この度、「勿忘草の咲く町で 安曇野診療記」の文庫化を担当させていただいた。著者は累計330万部を超える大ヒットシリーズ「神様のカルテ」や、コロナ禍ただ中の様子を最前線に立つ現役医師として描き、話題を呼んだ「臨床の砦」で知られる夏川草介氏だ。
担当編集として誤解を恐れず言わせてもらうなら、夏川氏は怒りの人だ。その爽やかな風貌、そして主として扱うことの多い「医療」というテーマを、穏やかかつ読みやすい筆致で描くことで知られる夏川氏だが、多忙の合間を縫って描かれる作品の根底には常に「怒り」が流れている。
本作「勿忘草の咲く町で 安曇野診療記」で氏が描くのは、地域医療における「高齢者医療」の実情だ。看護師3年目の月岡美琴と、新人研修医の桂勝太郎の視点を通して描かれる現場では、日々何らかの問題が起こり、悩みながらもまっすぐに向き合う2人の姿に胸を打たれずにはいられない。人員が足りず逼迫(ひっぱく)する現場、患者とその家族に求められる``誠意ある``対応、延命治療……命の問題だからこそ、正しい解は一つではない。というか、解はあってないようなもので、患者や家族を含む当事者自身が考えて、決断するしかないのだ。そのことを本書は改めて教えてくれる。
超高齢化の一途をたどる現代において、「胃瘻(いろう)」はじめ医療機器の発達により、私たちはさまざまな選択をできるようになった。しかしその選択をする際、一歩立ち止まって「生きる」ことについて考えるのは、非常に基本的なことのようで実は難しい。親の介護、自身の終活――自分にとって生きるとはどういうことなのか、考えなければならないターンは人生に何度もやってくる。そんな時にぜひ思い起こしてほしい一冊になったと思っている。
と、ここまで本作の魅力について一気に書き連ねてしまったが、本作が映像化されるのならぜひ観(み)てみたい。いわゆる医療ものの映像化作品は、その「生きるか死ぬか」の緊迫感に引き込まれることが多いけれど、本作ではその現場の緊迫感とは対極に描かれる安曇野の四季折々の景観もまた、大きな見どころの一つになるはずだ。著者自身が日ごろから目にし、心を傾けているのだろう信州の花と景色が、いかに生死と向き合う日々に寄り添ってくれているか、それを映像で観たいと思う。
そしてまた静かな「怒り」を燃料に描かれる氏の作品を、一読者として今から待ち焦がれている。