7月31日東京・イイノホールにて 撮影:和田大典

7月31日東京・イイノホールにて 撮影:和田大典

2022.8.01

菅田将暉の胸で号泣 死ぬ気で演じた原田美枝子の思い 「百花」完成披露舞台あいさつ

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山田あゆみ

山田あゆみ

映画「百花」(毎日新聞社など製作委員会)の完成披露試写会が7月31日、東京・イイノホールで行われた。主演の菅田将暉と原田美枝子、長澤まさみと永瀬正敏、川村元気監督がそろって舞台あいさつ。撮影中のバトルを振り返った言葉から、川村監督と原田の映画に懸けた熱い思いがにじみ出た。
 


 

認知症の母親の秘密「半分の花火を見たい」

「百花」は、映画プロデューサーとして「悪人」「天気の子」「竜とそばかすの姫」などを手がけ、小説家としても活躍する川村の初監督作品。「百花」も自身の実体験から生まれた小説が原作だ。認知症と診断された百合子(原田美枝子)が、「半分の花火を見たい」とつぶやく。介護する息子の泉(菅田将暉)は、百合子の日記から言葉に隠された秘密を知ることになる。
 
川村監督は、「7年かけてここまでたどり着いた。この間、動画配信サービスの普及など、映像の見られ方が変わったが、スクリーンで見ることで没入して楽しんでほしい」と思いを語った。
 

長澤まさみ「この人ならついていける」

菅田将暉と長澤まさみは、3度目の共演で初めての夫婦役。2人の話は、初共演時の思い出に。「ロケ先で一緒にカラオケに行って、楽しかった」「評判のラーメン屋に行ったのに、人だかりができて結局食べずに帰った」と、当時を懐かしみながら和やかな雰囲気。
 
長澤は菅田の印象を、「初めて会った時よりたくましくなっていて、この人ならついていけるという風格を感じた」と信頼を口にした。対する菅田は、「包容力や愛情が伝わり、夫婦像を作り上げることができた」と語った。
 

永瀬正敏「原田さんのピアノを聞いて心底ヤバイと……」

原田は、ピアノ教師役の設定。しかしピアノの経験はなく、半年間猛特訓をして撮影に挑んだという。現場で練習の段階から原田を見ていた長澤は「出来上がりを見ると、そのシーンだけで心をつかまれた。完璧にピアノをたしなんでいる人でした」と尊敬のまなざし。ピアノの生徒役の永瀬は「原田さんのピアノを聞いて、心底ヤバイと思った。もっと練習しておけば……」。
 
菅田は撮影現場での忘れられない出来事として、ある場面でカットの直後に、菅田の胸で原田が号泣したことをあげた。浴衣のまま水に入るシーンで、川村監督からなかなかOKが出ず、何度もリテークしたという。OKが出た後、役の感情と安堵(あんど)感が相まって涙となったそうで、「菅田さんが子どもをなだめる母親のように頭をなでてくれた」と振り返る。

「監督の要望にたどり着けず、最後は気が遠くなりそうだったが、夜空を見上げたら、溝口健二監督や黒澤明監督、増村保造監督が、この大変な現場を見てくれてるような気がして勇気が出た」。一緒に仕事をしてきた大監督に励まされての、演技だったようだ。
 

川村元気監督「原田さんと何度もけんかしました」

川村監督は、「原田さんと何度もけんかしました」と明かす。「何がダメなの、ワンテーク目から全力で演じているのに、と怒られた。でも自分は欲ばりなので、予想以上のものを待っていた。夢とうつつを行き来する百合子の、ゆらぎを表したすごい場面が撮れた」と満足げ。一方で原田は「目に見えている以上のもの、心の奥の奥にあるものが浮上してくるのを待っていたと、出来上がりを見て分かった」と感慨深げに振り返った。
 
川村監督は、撮影中に「私はラストチャンスと思って死ぬ気でやってる。あなたも本気でやって」と迫られ、そこから何でも相談できるようになったとか。原田は「けんかしていいと思う。人と対峙(たいじ)するのは、人生の中でほんの一瞬、奇跡的な出会い。そこは真剣になった方が楽しいですよね」。ぶつかり合いの中から生まれた映画への情熱がにじんでいた。
 
「百花」は9月9日、東京・TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

カメラマン
ひとしねま

和田大典

毎日新聞写真部カメラマン