第76回毎日映画コンクールで男優助演賞を受賞した仲野太賀

第76回毎日映画コンクールで男優助演賞を受賞した仲野太賀

2022.2.16

男優助演賞 仲野太賀「すばらしき世界」 間違いなく自分の代表作

日本映画大賞に「ドライブ・マイ・カー」

男優主演賞 佐藤健「護られなかった者たちへ」
女優主演賞 尾野真千子「茜色に焼かれる」


第76回毎日映画コンクールの受賞作・受賞者が決まりました。2021年を代表する顔ぶれが並んでいます。受賞者インタビューを順次掲載。
1946年、日本映画復興を期して始まった映画賞。作品、俳優、スタッフ、ドキュメンタリー、アニメーションの各部門で、すぐれた作品と映画人を顕彰しています。

勝田友巳

勝田友巳

〝聖地〟西川組での受賞、何よりうれしい

男優助演賞は「すばらしき世界」(西川美和監督)の仲野太賀が射止めた。ここ数年、映画、テレビで印象的な役どころを好演し、進境著しい成長株だ。受賞を素直に喜んだ。


観客と映画の橋渡しを務めようと

「『すばらしき世界』の西川組で賞をいただけたのが、何よりうれしいです」。中学生で西川監督の「ゆれる」を見て衝撃を受け、西川監督に憧れていた。「日本映画ってこんなに面白いんだと。今見返しても新しくて、偉大な作品だと思う。その後も素晴らしい作品を作ってこられて」

実は西川組での仕事は初めてではない。10年ほど前、西川監督が演出したテレビドラマに半ば強引に志願して、少しだけ出演している。「セリフもない、寄りのカットもない『大学生B』みたいな役」だったが、西川監督は彼を覚えていた。「父親(俳優の中野英雄さん)の唯一の忠告が『誰かがどこかで見ているから手を抜くな』だったんですが、ほんとにあるんだね、みたいな」。冗談めかしていても、心底うれしそうだ。

演じたのは作家志望の青年、津乃田。刑務所から出所した三上(役所広司)の更生をテレビドキュメンタリーにしようと取材する。殺人犯で元ヤクザの三上に最初はおっかなびっくりだが、真っすぐな人柄に次第に引かれていく。「観客と映画の橋渡しになってほしいと監督からも言われ、自分でもそう思いました。僕を通して三上に共感してもらえたらいいなと」。変幻自在な役所と堂々と渡り合い、その演技は高く評価された。
©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

「役所広司さんに引き上げられていくのが分かった」

撮影中は出番のない日も現場に来て、「役所さんをずっと見てました」という。俳優としての「記憶の蓄積、演技の糧」となるから。そればかりではない。

「僕の役割は三上を見つめ続けることだと思っていました。三上は元ヤクザで、人をあやめている。自分と違う人間にどれだけ思いをはせられるかが、2人の関係性には必要だと思ったんです。だから、現場で役所さんが何を感じて、どんな思いで臨んでるのか、言葉を交わすのでなく、思いをはせるようにして、寄り添えたらいいなと」

演技への評価は役所のおかげという。

「役所さんを前にして、自分が引き上げられていくのが分かるんですよ。込み上がってくるものが誘発される、広がっていく。無自覚に扉が開かされていく感覚でしたね。日本最高峰の役者さんの頂はとてつもなく高かった。こんなお芝居ができるんだ、心を揺さぶることができるんだと。俳優という職業の魅力に、改めて気付かされた。まだまだこの先、道があるんだと実感しました。それは希望でもあるし、挑戦でもあるんですけど」

スタッフも、今回の毎日映コンで撮影賞に選ばれた笠松則通はじめ、そうそうたる面々だった。「映画をよく見た2000年代に、憧れていた方々ばかり。西川組のカメラ前は、自分にとっての聖地。この場所にいるために、ここまで頑張ったと思えたんです。まぎれもなく、自分にとっての代表作だし、お守りだと思ってます」

デビュー直後に手痛い「洗礼」

13歳でデビューして、すでに15年。デビュー直後はやんちゃで、こんな経験も。少年野球映画「バッテリー」(滝田洋二郎監督)にオーディションで選ばれ、野球部員の一人として出演した。ところが撮影中、同年代の出演者と大はしゃぎ。滝田監督に、態度が悪いと叱られ、セリフを大幅に削られた。

「いちばんの見せどころをガッツリと。役が変わった。君じゃダメだって。忘れもしないです。あの瞬間は、すべての大人を恨みました。ま、自分が悪いんですけどね。あの時があるから、今の自分があるっていうか(笑い)」

ただ、演技への思いは当時と変わらないという。

「不思議とお芝居のモチベーションみたいなものは、始めた頃と変わってないですね。10代から20代前半の方が、こうありたいという気持ちは、もっと強かった気がします。いろんな人と出会っていくうちに、自分を肯定してもらえた気がして、そのままの自分でいいのかもしれないと、肩の力とか貪欲さとかが抜けてきた。そのタイミングで、状況も変わってきたのかな」

「すばらしき世界」への出演と受賞は、励みになりそうだ。「この経験で、映画をやっていいという気持ちになれた。西川さんと役所さんと過ごした時間があった自分は、もっともっと頑張らなきゃと、そういう思いです」

言葉を探して考えながら、誠実な受け答え。目指す俳優像は?の問いへの答えは、あえてそのままを字にすると、こんな感じだった。

「うーん、そうだなあ(50秒の沈黙)……強気でパーンと言いたいなあ。まあそうですね(さらに1分超)……ぼくがなんか、役所さんに憧れたように、なんか、ほかにも尊敬する俳優さんはいっぱいいるんですけど、そういう人たちみたいに、若い世代に、こう、なんだろうな……そういう、なんか、こういう人がいるから、自分も役者やってみたいと、そういう存在になったらいいと思います」

長い間がけっして気まずくなく、むしろ出てくる言葉を楽しみに待ったのだった。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

長谷川直亮

毎日新聞写真部カメラマン