内モンゴルの都会に暮らすミュージシャンのアルスは、気がかりだったアルツハイマーを患う母を思い切って引き取り、彼女が求めてやまない故郷に連れて帰ることにする。 すでに、息子の自分を認識できないほど病状が悪化した母は、草原の中で徘徊を繰り返すようになり、アルスは母親が迷子にならないようにと、縄で母と自分の体を結ぶ。まるで少女に戻ったかのようになっていく母を縛りつけたまま、2人は母の思い出の木を探す旅に出る。遥か彼方まで広がる壮大な草原、伝統的なゲル（天幕）での移動の生活、天地に捧げる感謝の祈り。母は徐々に解放されていくのだったが、やがて、母の最期の時が近づいてくる。

フランスで映画を学んだ1990年生まれのチャオ・スーシュエ監督のデビュー作。美しい風景を映し出すのは、「南京!南京!」（2009年）でアジア・フィルム・アワード最優秀撮影賞、金馬奨最優秀撮影賞、サン・セバスチャン国際映画祭最優秀撮影賞ほか、「空海 KUKAI 美しき王妃の謎」（17年）で金鶏奨最優秀撮影賞、アジア映画批評家協会賞最優秀撮影賞、「エイト・ハンドレッド 戦場の英雄たち」（20年）でアカデミー賞最優秀撮影賞にノミネートされた撮影監督のツァオ・ユー。