この1本:「時々、私は考える」 美的な死の心象風景
劇的な出来事はほぼ皆無、地味で無口で、これほど主人公らしくない主人公も珍しい。それでも、彼女の息づかいが伝わるような場面の数々と端正な画面に引きつけられて見入ってしまう。原題を直訳すれば、「私」が考えるのは「死について」。フランは死にたいわけではないけれど、自分が死んでいる姿を想像する。その光景が恐ろしくもおぞましくもないところが、現代の心象なのかもしれない。 米オレゴン州の港町アストリアの会社に勤めるフラン(デイジー・リドリー)は、地味で引っ込み思案、いつもひとりぼっち。職場と家を往復する単調な日々を送っている。定年退職した同僚の後任、ロバート(デイブ・メルヘジ)とデートをするようになって...