この1本:「悪なき殺人」 それぞれのウソと秘密
ドミニク・モル監督の映画は、小さなひび割れのように始まる。何気なく隙間(すきま)をのぞくと不穏な景色が広がっていて、ゾッとしながらも目が離せない。魅力的だが毒気も強い。油断は禁物だ。 雪道に車が乗り捨てられていて、持ち主のエヴリーヌ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)が行方不明になっている。フランスの寒村で起きた事件の顚末(てんまつ)を、バラバラの登場人物の視点から語るという趣向である。社会福祉士のアリス(ロール・カラミー)は担当しているジョゼフ(ダミアン・ボナール)と不倫している。ジョゼフの飼い犬が射殺されているのを見て、アリスは夫の牧場主、ミシェル(ドゥニ・メノーシェ)が感付いて脅したので...