この1本:「エッシャー通りの赤いポスト」 カオスの中に夢と情熱
しっちゃかめっちゃかな作品かと思っていたら、エンドロールを見るころには心が震えていた。通り一遍の〝感動作〟なんていう気は毛頭ない。映画への熱い思いはもとより、人を見る目の優しさにあふれているから。ダメな人や一歩が踏み出せない人、弱者への園子温監督流のエールを隅々から感じたのだ。見応えある作品が多かった今年の日本映画界の末尾を飾るにふさわしいお薦めの1本である。 ある街で小林正監督の新作「仮面」の出演者オーディションが行われる。レズビアンギャングという女劇団員、小林監督の親衛隊、俳優志望の夫を亡くした若き未亡人らが監督やプロデューサーの前で演じ、語る。小林監督は映画仲間の元恋人の助けもあり、新...