この1本:「TAR/ター」 権力者の失墜に浮かぶ闇
クラシック音楽界を舞台としたサイコスリラーにして音楽映画でもあり、実録風に業界の内幕にも迫る。そのどれもが一級品。失墜する権力者の肖像を圧倒的な筆致で描き出し、長尺もあっという間である。 ベルリン・フィル初の女性常任指揮者、ター(ケイト・ブランシェット)は順風満帆。いくつもの有名交響楽団を率いた華麗な経歴を持ち、自伝の出版を控え翌月にはベルリン・フィル初のマーラーの交響曲第5番のライブ録音が決まっている。有能な秘書フランチェスカ(ノエミ・メルラン)と共に楽団の実務もこなし、一緒に暮らす楽団のバイオリニスト、シャロン(ニーナ・ホス)と養子のペトラを育て、私生活も充実していた。 才能と実績に裏...