毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.6.17
チャートの裏側:重厚な犯罪劇の伝統継ぐ
ハードな犯罪劇を描く邦画の実写娯楽作品が久しぶりに登場した。「キャラクター」だ。邦画アニメーションが強さを発揮する今の興行事情で、このような重厚な実写作品が公開されるとホッとする。「ガンバレ実写」という気持ちもある。オリジナル企画である点も心強い。
芽が出ない漫画家が、現実の犯罪を目の当たりにしたことから、そのリアル感を自作に取り入れて売れっ子になる。もちろん、そこには落とし穴がある。それも一つではない。落下の際のあまりの深さに驚く。身の毛がよだつ。落とし穴は、観客に対しても仕掛けられている。
菅田将暉(漫画家)と小栗旬(刑事)が出色の演技を見せる。菅田は善人であるがゆえに表現者として不安を抱え、小栗は経験から積み上げた卓越した捜査能力を駆使する。2人ががっぷり四つで交差する演技は、これまでのどの映画にも似ていない空恐ろしい局面に行き着く。
最終の興行収入で、10億円が一つの目安だろう。題材から、客層が少し限られたかもしれない。人気バンド〝セカオワ〟メンバーのFukaseの起用含め、配役の見事さは言うに及ばない。静かな口コミの浸透を期待したい。本作は、黒澤明監督らが切り開いた邦画サスペンス=犯罪劇の大切な伝統を受け継ぐ。途切れさせてはならない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)