毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.10.14
「かそけきサンカヨウ」
幼い頃に母が家を出て行ってから父(井浦新)と暮らし、家事も担っている高校生の陽(志田彩良)。父の再婚によって、美子(菊池亜希子)と4歳の連れ子、ひなた(鈴木咲)と暮らすことに。陽は同級生の陸(鈴鹿央士)に戸惑いを打ち明けながら、新しい生活に慣れようとする。
窪美澄の短編集「水やりはいつも深夜だけど」に収められた同名の短編を今泉力哉監督が映画化。恋愛映画の名手と呼ばれる今泉監督が、10代のみずみずしい恋模様を描きながら、家族の形と向き合った。起こっていないようで、それぞれの胸の奥底ではさまざまな揺れが生じている。今泉監督は長回しも使いながら心のさざなみを注意深く見つめ、役者陣も繊細な芝居で応える。とりわけ志田、菊池の静かなやりとりが深い余韻を残す。大きく衝突する前にみんなが相手を思いやり、物語を動かすために配置されたキャラクターも、意地悪な人も登場しない。人間の善なる部分を信じたくなる、静かな家族のドラマだ。1時間55分。東京・テアトル新宿、大阪・テアトル梅田ほか。(細)
ここに注目
陽をめぐる父や父の再婚相手との距離感、同級生との恋愛感情のなんと淡いことか。ささやかな内面のうつろいとともに、心の機微が動き出す。10代後半の多感な男女を真ん中に据えても葛藤や反発を抑え、それでいてリアルな味わいが漂う。その細部にわたる繊細さは癖になる。(鈴)