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2022.8.23

俳優生活35年 ブラッド・ピットの衰えぬ魅力:演技力が導いた濃密なキャラクター遍歴

俳優デビューから35年、トップスターであり続けるブラッド・ピット。最新主演作「ブレット・トレイン」の公開に合わせ、その変わらぬ魅力を徹底分析。映画人としてのキャリアの変遷、切り口ごとのオススメ作品、人柄を感じさせるエピソードと、多面的に迫ります。

SYO

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世代を問わずに、日本人の誰もが知るハリウッドスター。トム・クルーズ、レオナルド・ディカプリオ、ジョニー・デップ……。そしてこの人、ブラッド・ピットだろう。数十年に及びこの座をキープし続けている影響力と存在感は、驚嘆に値する。
 
特にブラッド・ピット=ブラピは、ザ・娯楽作的なブロックバスター映画に多数出演するタイプではなく、作家性の強い作品を中心に選んできた。彼自身も、特に中期以降は二枚目的な役柄を避け、汚れ役や人間臭いキャラクターに注力。にもかかわらず、シネフィルによらずネームバリューがあり続けるという事実――。必然の“ぶっ飛び映画”である最新主演作「ブレット・トレイン」の公開を記念し、本稿ではブラッド・ピットのエッジーなキャラクター&作品群を振り返っていきたい。
 

「セブン」
(C)2010 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved. 

鬼才たちの作品で見せるインパクトある演技

 
まずは1995年の映画(日本公開は96年)「セブン」と「12モンキーズ」。前者はデビッド・フィンチャー、後者はテリー・ギリアムと鬼才の名が似合う監督たちとコラボレーションした。「セブン」では猟奇殺人犯を追う武骨な刑事に扮(ふん)し、泥臭い魅力を披露。終盤に刑事に待ち受けている壮絶な運命とその際の表情は、一度見たら忘れられないほどのインパクトだ。
 

「ベンジャミン・バトン」
The Curious Case of Benjamin Button © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design © 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved. 

ブラッド・ピットとフィンチャーは「ファイト・クラブ」(99年)、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(2008年)でもタッグ。前者で演じたカリスマ性あふれるせっけん屋のタイラー・ダーデンは彼の代表的キャラクターともいえ、いまだに多くの映画好きをとりこにし続けている。後者では、老人の姿で生まれて年齢が上がっていくにしたがって若返っていくという他に類を見ない難役に挑戦。表情・声色・仕草等々、しっかりと説得力をもたらしてくる演技はさすがの一言だ。
 

「12モンキーズ」
(C)1995 UNIVERSAL CITY STUDIOS. INC. All Right Reserved. 

そして、ブラッド・ピット=キレたキャラのイメージが定着したのは、恐らく「12モンキーズ」であろう。本作では、クレージーなテロリストを熱演。初登場シーンから瞳孔は開きっぱなしで、早口&奇怪な動きを繰り返すサイコなキャラを見る者の脳裏に刻み付ける。異常性をほとばしらせながらも、しっかりと観客が「カッコいい」と思える領域に持ってくるあたり、ブラッド・ピットの演技力が如実に出た作品といえる。本作と前述の「ファイト・クラブ」を含め、“狂気”は彼の特性を見ていくうえでひとつの重要なキーワードになっていく。
 

「イングロリアス・バスターズ」
Film (C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED. 

タランティーノ作品で見せる泰然とした存在感

 
クエンティン・タランティーノ監督と組んだ「イングロリアス・バスターズ」(09年)は、その好例だ。本作でブラッド・ピットが扮したのは、ナチス・ドイツを震え上がらせる秘密特殊部隊のリーダー。劇中を通して全くブレることなく、徹底的に彼の正義を貫くさまは頼もしくもあり、その容赦のなさは恐ろしくもある。限界突破してしまった狂気がヒロイックなものに感じられるのは、タランティーノ作品特有のテンションもあろうが、泰然としたブラッド・ピットの存在感あってこそだろう。
 
タランティーノ監督との再タッグ作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(19年)では、衰えぬ若々しさで見る者を驚かせた。本作で演じたスタントマンもまた、我が道を行く男であり、カルト信者に囲まれても動じない肝っ玉は一種の狂気に近い。
 

「ツリー・オブ・ライフ」
The Tree of Life (C) 2010 Cottonwood Pictures, LLC. All rights reserved. Artwork & Supplementary Materials Copyright (C) 2011 Fox and its related entities. All rights reserved.  ※The Tree of Life のみイタリック体表記

ここまで紹介した作品は、主にエンターテインメントの領域にある作品だが、ハリソン・フォード共演作「デビル」(97年)で演じたIRAの活動家、「ツリー・オブ・ライフ」(11年)での封建的な父親など、シリアスな人間ドラマでの抑えた狂気もまた、実に味わい深い。「バベル」(06年)や「ワールド・ウォーZ」(13年)のように、危機的状況に置かれた“一般人”の覚悟を違和感なく見せられるのもまた、狂気の本質を捉えているからといえるのではないか。
 
 

自在な演技力で築かれたフィルモグラフィーとこれから

 
今回は「ブラッド・ピット×狂気」というテーマで出演作を見てきたが、これは確かに彼の特長ではあるものの、振り切れた大きい演技から、繊細な内にこもる演技まで自在に表出できる非凡な演技力を表す一つのトピックに過ぎない、という見方もできる。そうでもなければ、球団のゼネラルマネジャーの生きざまを丁寧に積み上げていく「マネーボール」(11年)から、コーエン兄弟との「バーン・アフター・リーディング」(08年)、「デッドプール2」(18年)、「ザ・ロストシティ」(22年)といったコメディーまでなんでもござれのフィルモグラフィーを形成することはできなかっただろう。
 
なんとも軽やかにジャンルを横断していくスター、ブラッド・ピット。最新作の「ブレット・トレイン」は、終始バカバカしいほどの陽気なテンションで進んでいくアクション大作だ。ブラッド・ピットはとかくツイていない不幸体質の男を飄々(ひょうひょう)と演じているが、彼本来の魅力が崩れることはない。むしろその抜け感がダサカッコよさを形成しており、ファンにおいては「好きにやってんなぁ」とニヤニヤしてしまうはずだ。
 
ちなみに、本作を経たのちは「ラ・ラ・ランド」(16年)のデイミアン・チャゼル監督の新作「Babylon(原題)」が控えている。1920年代のハリウッドを舞台にした歴史劇とのことで、また新たな魅力で我々を酔わせてくれるに違いない。


<画像使用の作品一覧>

●「セブン」
デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●「ベンジャミン・バトン」
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●「12モンキーズ」
Blu-ray発売中(税込¥2,200)&デジタル配信中
発売・販売元:松竹
2022年8月23日時点での情報です。



●「イングロリアス・バスターズ」
ブルーレイ 2,075円(税込) DVD 1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント


●「ツリー・オブ・ライフ」
ブルーレイ発売中/デジタル配信中(購入/レンタル)
発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

ライター
SYO

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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