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2025.2.03
現役医師の小説が原作! チュ・ジフン主演の医療施設立て直しドラマ「トラウマコード」
「イカゲーム2」が世界中で旋風を巻き起こすなか、1月にネットフリックスで配信が始まったチュ・ジフン主演の医療ドラマ「トラウマコード」の評判も上々だ。現役医師による同名のウェブ小説をイ・ドユン監督がドラマ化。映画「コンフェッション 友の告白」(2014年)でもタッグを組んだ2人の絶妙なコンビネーションが感じ取れる。
「名ばかりセンター」に赴任した外科専門医
国境なき医師団の元メンバーとして紛争地域で活動していた外科専門医ペク・ガンヒョク(チュ・ジフン)は、名門病院・韓国大学病院の重症外傷センターに赴任する。激務のため、専門医のなり手がいない〝名ばかりセンター〟の再建に乗り出す。
チュ・ジフンの新たなハマり役と言っていいだろう。豪胆で傲慢。古い組織には不適格なキャラクターを支える確かな医療技術と、命を救いたいと願う熱いハートを持つガンヒョクは、ワイルドながらどこかエリートの香りがするチュ・ジフンの雰囲気に合っている。
ガンヒョクは「天才」医師と周囲から呼ばれるが、私は「実力派」と表現したい。このドラマの醍醐味(だいごみ)は、神の手を持つ医師が救命救急を一手に負うのではなく、過酷な地で医療に従事し、人一倍努力を重ねてきたガンヒョクが同僚たちを巻き込み、ノウハウを伝授して育てていく点だ。ガンヒョクは決して孤高の存在ではなく、熱意と志があれば目指せる医師像なのだというメッセージだろうか。
現場のシビアな事情が描かれている
筋書きは予定調和な展開だ。保守的な大学病院にガンヒョクという希有(けう)なキャラクターが彗星(すいせい)のごとく現れ、組織が良い方向に変わっていく。一方、現場の描写は一刻を争う緊迫感が漂う。人員不足による多忙、赤字経営、上層部からの圧力など重症外傷のシビアな事情が描かれており、思いのほか地に足の着いた医療ドラマという印象を受ける。原作者が医師なだけにリアリティーがうかがえる。
ガンヒョクの弟子となるヤン・ジェウォン役を演じるのはチュ・ヨンウ。「オク氏夫人伝 -偽りの身分 真実の人生-」で一躍有名になった俳優だ。医師一家のお坊ちゃまだが、ガンヒョクに魅せられて大学病院での出世を捨てる。看護師のチョン・ジャンミ(ハヨン)もガンヒョクに重症外傷センターに引き抜かれる。3人のチームを中心に、ガンヒョクを敵視する権威主義的な部長ハン・ユリム(ユン・ギョンホ)、企画調整室長ホン・ジェフン(キム・ウォネ)、病院長チェ・ジョウン(キム・ウィソン)らが大学病院の人間模様を織りなす。
過酷な救命救急、命の尊さ、権力闘争の要素が入った医療ドラマは、事によると重たくなりかねないが、本作はチュ・ジフンが軽やかな演技でコメディー仕立てになっている。キム・ヘスとダブル主演したドラマ「ハイエナ -弁護士たちの生存ゲーム―」の野心家弁護士ユン・ヒジェ役のように、彼の持ち味が際立つ。脇を固めるユン・ギョンホらベテランはもちろんのこと、ジェウォンの(育ちの良さ故の?)素直すぎる性格、正義感の強いジャンミを演じた若手の演技も見どころの一つだ。
欲を言えば、もっと女性の医師に登場してほしかった。院内の女性医師はマ・テリム麻酔科教授(ミニョン)だけで、登場回数も少ない。だけど経済協力開発機構(OECD)によると、韓国の女性医師の割合は25%(21年現在)で、OECD平均の50%を下回っている(ちなみに最低は日本の23%)。ここでもまた、医療の世界を知る原作者のリアリズムが表れているのかもしれない。
Netflixシリーズ「トラウマコード」は独占配信中。