毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.9.02
地下室のヘンな穴
アラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)の夫妻は、不動産屋に薦められ地下室に穴がある家を購入する。穴はなぜか2階の屋根裏に通じていて、そこを通り抜けると12時間先に行き、3日若返る。マリーは10年若くなってモデルになるという考えに取りつかれ、穴に入り続ける。一方アランの上司ジェラール(ブノワ・マジメル)は、若い恋人のために電子制御の人工性器を装着した。フランスの鬼才、カンタン・デュピュー監督による奇譚(きたん)コメディー。
若さへの妄執がもたらす悲喜劇、という寓意(ぐうい)よりもバカバカしさが先に立つ。穴に入り続けるマリーはアランのはるか先の未来に行ってしまうから、夫妻はほとんど会えない。制御自在が売り物の日本製人工性器は、回路の故障で暴走する。1時間14分の短い映画はあっけにとられるうちに加速して、不条理のまま幕を閉じる。アイデア勝負の勢い映画だが、フランス流の皮肉も利いて大笑い必至。東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)
ここに注目
現実にはありえない摩訶(まか)不思議な話も、堂々と語れば成立するという見本のような怪作。不動産業者のもったいぶった〝穴〟についての説明ぶりや、マジメルが男らしさを追い求める勘違い男に扮(ふん)したサブストーリーにも爆笑。〝ヘンな映画〟の名手デュピュー監督、面目躍如の1本。(諭)